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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)4252号 判決 1989年2月27日

原告

篠原貞子

右訴訟代理人弁護士

寺沢勝子

河村武信

川西渥子

国府泰道

大江洋一

被告

右代表者法務大臣

高辻正己

右指定代理人

小見山進

蔵本正年

高橋亨

園田昌彦

西田哲也

石黒洋治

平井秀幸

窪田訓

金田光雄

上田幸男

桑原和巳

上田正己

山田晴康

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(第一次)

原告が被告の非常勤職員たる地位にあることを確認する。

2(第二次)

原告が被告に昭和四七年六月二九日に採用された従業員たる地位にあることを確認する。

3(第三次)

原告が被告との間で同日締結した職場ヘルパー委託契約と称する労働契約類似の無名契約上の地位にあることを確認する。

4 被告は原告に対し、金三八万五〇〇〇円及びこれに対する同五九年四月九日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに同年五月一日から毎月九日限り月額五万五〇〇〇円の割合による金員を支払え。

5 訴訟費用は被告の負担とする。

6 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨ならびに被告敗訴の場合、担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

被告は郵政省及びその一機関として大阪中央郵便局を設置している。

原告は、昭和四七年六月二九日大阪中央郵便局長により職場ヘルパーとして採用され、同五八年九月三〇日まで勤務し、同時点において被告から毎月九日限り、月額金五万五〇〇〇円の給与の支払いを受けていた。

2  採用行為

(一) 募集

被告は、郵政省西中島宿舎入口に設置された掲示板に大阪中央郵便局長名で「職場ヘルパー募集」の広告を掲載するほか、天満公共職業安定所に求人の申込みを行い、職場ヘルパーを一般公募してきた。

(二) 採用に至る経緯

原告は、右広告を見て同月二八日大阪中央郵便局計画課を訪れ、担当者から、勤務場所は窓口集配部集配課であること及び後記職務内容・労働条件などの説明を受け、採用を希望した。

(三) 採用

被告は、同日、同月二九日付けをもって原告を任期の定めのない非常勤職員として任用し、同郵便局窓口集配課長及び庶務課長を通じ、口頭で原告にその旨を伝え、原告は被告に対し、職場ヘルパー委託請書と題する書面に署名・押印し、差し入れた。

被告は右採用に際し、原告に対し、「ヘルパーは辞める人が多いので困っている。あなたは長く続けてやって下さい。」と言い、原告は同五八年九月三〇日まで勤務を継続してきた。その間原告の担当した業務は、後記のとおり臨時的なものではない。

3  勤務内容

(一) 態様

原告は出勤すると、大阪中央郵便局窓口集配課調理係備付けの出勤簿に押印する。同郵便局地下の速達集配作業場に職場ヘルパー用の机が設置されており、ここが原告の執務場所であった。原告が同五五年午前勤務になって以降、計画課担当者は三人の職場ヘルパーが一ケ月おきに輪番で第一ないし第三集配課を担当するように指示し、原告らは右指示に従い各集配課の課長席近くの専用机において執務してきた(右輪番制の割替えも同担当者の指示による)。

(二) 具体的職務内容

原告ら職場ヘルパーが被告から指示され行った職務は次のとおりである。

(1) 郵便外務職員の職服の繕いなど

原告らは、郵便外務職員の職服のボタン付け、ズボンの繕い、年二回支給される新しい職服の裾上げ、胴回りの調整などをしていた。さらに、被告は原告らに対し、同職員の私服の繕いは禁止するものの、ズボンが破れて帰宅するにも支障があるような場合には応急の繕いはしてやるようにとの細かな指示を与えていた。

原告らが使用するミシン、糸・針・ボタン・チャックなどは全て計画課が購入し、附属品が不足すれば申し出るよう指示されていた。

(2) 郵便外務職員の生活相談

原告らは郵便外務職員の食生活や健康管理につき相談に応じていた。ただし、相談といっても、特に専門的知識を必要とするわけではなく、母親代りに日常的な話の聞き役となったり、自己の家庭生活の体験を通じて得た知識に基づいて助言する程度にすぎない。

(3) 休憩室の清掃

原告は、休憩室の布団の後片付け及び清掃、シーツ・布団カバー・枕カバーの取替え、新聞やビラ等の後片付け、灰皿の清掃、床の拭き掃除、うがい器・洗眼機の清掃を行っていた。

(4) 湯茶の用意

原告は、(イ)各休憩室・各班のポットに各階ごとに設置されている給湯器から湯を汲み、第一ないし第三集配課に備え置くこと、(ロ)湯茶は原則として午前中に用意し、午後補充すること、(ハ)自動給湯器を清掃し、茶殻を捨てて茶を補充すること、(ニ)各休憩室・各班の湯呑み・急須を洗い、所定の場所に片付けること、(ホ)茶碗は公、私物とも全て洗うことなどの詳細な指示に従い同五五年一〇月から湯茶の用意をした。

(5) 職場環境の改善

原告は、床の捲れ、ソファーの穴、ごみ箱の壊れなど修繕箇所をヘルパー日誌に記載していた。

(6) 職場ヘルパー日誌

原告は毎日職場ヘルパー日誌を書いた。被告は同五六年ころから右日誌に郵便外務職員の相談内容や職場ヘルパーの感想を記載することを禁止したため、前記繕いの箇所及び数量のみを記載するようになった。

(三) 原告らの職務内容は細部に亘るまで被告によって、窓口集配部集配課の作業の一過程、郵便外務職員の勤務体制と連動するものとして決定され、原告らは計画課担当者の具体的指示を受けその指揮命令の下に勤務してきたのであって、原告らに裁量の余地はなかった。

4  労働条件

(一) 賃金等

原告が採用された当初は時給一八〇円であったが、すぐに二〇〇円に昇給し、その後暫くして職員の昇給時期に応じて毎年ベースアップされた。ほかに一時金(七月、一二月)及び交通費が支給された。支給は日給月給制によっていた。

(二) 労働時間

労働時間は一日四時間であった。原告は当初午後一時から五時までの勤務であったが、同五五年ころ午前一〇時から午後二時までの勤務に変更になった。出勤時に出勤簿に押捺し、退所時刻は職場ヘルパー日誌に記載するよう指示されていた。原告はかつて一五分遅れて出勤したので退庁時刻を一五分遅らせたところ、被告から勤務時間を厳守するよう注意され、遅刻するのであれば欠勤するようにと指示されていた。

年末年始の一二月一〇日から一月九日まで毎日一時間ずつ勤務時間が延長され、超過勤務手当が支給されたが、原告には右延長を拒否する自由はなかった。

(三) 休日及び休暇

出勤日は日曜日、休日及び毎月ごとに大阪中央郵便局長の指定する日一日を除く毎日と規定されていた。右規定は一ケ月に一日の有給休暇を与える趣旨であり、原告ら三人の職場ヘルパーは欠勤が重ならないよう予め月初めに申し出て休暇をとっていた。

(四) その他

職場ヘルパーに対しても年一回健康診断が行われ、女子職員の受診日に同一内容の健康診断を受けることになっていた。また、原告は被告から事務服を貸与され、女子職員の更衣室、ロッカー・靴箱の使用を許された。他方、原告は職場ヘルパー会議(職場ヘルパー打合せ会)のほか、勤務時間中に行われる研修(同和研修・国際婦人年研修等)にも参加する義務を負っていた。

5  服務規律違反

被告は、原告が指揮命令に違反した場合事実上不利益措置を講じ、原告の服従義務の遵守を図っている。それは懲戒規定等による懲戒処分ではないが、実態の上では原被告間に支配服従関係が存在することを示す。たとえば、原告が遅刻した場合、被告は口頭注意のほか帰宅を指示し、これによって原告は一日分の賃金を減額される。また、被告は原告ら職場ヘルパーに対して、「私物の修理は職員から依頼があっても応じてはならない」、「勤務時間中に解雇について訴えたり話をしたりすることを禁止する」、「貸与された事務服以外を着てはいけない」などの口頭注意を頻繁に行う。そして、原告らに著しい業務命令違反・業務懈怠があれば契約を解除しうることになっている。

6  国家公務員としての任用

原告は同四七年六月二九日被告により任期の定めのない非常勤職員として任用された(昭和二四年人事院規則一五―四、同三〇年人事院規則八―一四)。

原告は被告に対し、職場ヘルパー委託請書を継続的に差し入れているから、任用行為の客観性、明確性及び形式性に欠けるところはない。昭和二七年人事院規則八―一二第七五条一号の定める人事異動通知書の交付は任用の効力要件ではないし、同規則七七条一号によると、非常勤職員については右通知書の交付は必要ではなく、「郵政省非常勤職員任用規程の運用について」(同三五年一〇月二〇日郵人第七二五号、以下「運用通達」という)六条4(2)アによれば、発令は、辞令簿又はこれにかわる帳簿等に発令事項を記載し、本人に確認させ押印させれば足るから、原告は右委託請書への押印により発令されたというべきである。

7  労働契約の締結

(一) 原告は同四七年六月二九日被告との間で職場ヘルパー委託契約(以下、「本件契約」ということがある)を締結したが、右契約は前記2ないし5の事実に照らせば労働契約というべきである。

(二) 労働契約の締結は国家公務員法(以下「国公法」という)二条六項に違反しない。

(1) 被告は、労務供給契約のうち請負、委任及び寄託については私法上の契約を締結することができる。それにもかかわらず、労働契約は締結できないとする合理的根拠はない。

(2) 被告の行う私法上の労働契約の締結は、国家公務員の任用と異なり、契約内容に限定された労働法律関係を発生せしめるに止まり、国公法を初めとする公務員法制の企画する予算・人事政策上の制約を逸脱するわけではない。

(三) かりに、被告において右法条により私法上の労働契約の締結が許されないとしても、被告は、脱法行為として委託契約の形式によって労働契約を締結したのであるから、有効な労働契約の成立を否認することは信義則に反し許されない。

8  労働契約類似の無名契約の締結

本件契約は、かりに労働契約と認めえないとしても、典型契約たる委託と同視することはできないから、労働契約類似の無名契約として有効に成立したというべきである。

9(一)  被告は同五八年八月一八日原告に対し同年九月三〇日限りで解雇する旨の意思表示をなし、同年一〇月一日以降原告の就労を拒否し、もって自己の責に帰すべき事由により原告の就労を不能に帰せしめた。

(二)  被告による原告の雇用には期間の定めがない。

(1) 前記本件契約の内容、原告の職務の内容及び実態からすれば、原告の職務自体に臨時的・短期的性格はない。

(2) 被告は原告を採用するにあたり期間の定めについて全く言及しなかったのみならず、約一年後計画課長は原告に対し、「ヘルパーは辞める人が多いので、あなたはヘルパー制度がなくなるまで続けてやって下さい。」と述べた。

(3) 原告が被告に差し入れた職場ヘルパー委託請書には期間の記載があるが、右請書は同五四年までは毎年作成交付していたわけではないし、前の請書の契約期間が満了した後に作成したものもあり、記載された契約期間自体もまちまちであって、右記載をもって契約期間の定めがあるとはいえない。

(4) 本件契約は反覆更新されて約一一年間にわたり継続してきれ(ママ)のであるから、期間の定めのないものに転化した。

(三)  したがって、被告による右契約終了の意思表示は実質上解雇にあたるから、解雇に関する法理を適用又は類推適用し、正当な理由が必要である。郵政省においては、近時、郵便業務の民間委託が顕著であるから、労務利用関係における労働者の保護も民間会社におけると同程度に考慮されるべきである。

(四)  大阪中央郵便局は、原告ら職場ヘルパー三名に対しあらかじめ退職の意向を打診し任意退職を説得したり、各人の生活上の事情を聴取して合意に達するよう努力するなどの措置を全くとらなかった。また、同郵便局において、職場ヘルパーの配置人員が削減されたとしても、江頭武子の退職により配置人員数と実人員数は合致することになったのであるから、原告を退職させる必要はなかった。したがって、被告の契約終了の意思表示には全く合理性がない。

10  よって、原告は被告に対し、第一次的に任用、第二次的に労働契約、第三次的に労働契約類似の無名契約に基づき請求趣旨記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

1  請求原因1は認める。

2(一)  同2(一)の事実は認める。

(二)  同2(二)の事実のうち、被告が原告に対し職場ヘルパーに委託する業務の内容等について説明したことは認めるが、それが労働条件を明示したものであるとの趣旨は争い、その余は否認する。

(三)  同2(三)の事実のうち、被告が原告を任期の定めのない非常勤職員として任用し、長期間の就労を希望したとの点は否認するが、その余は認める。

後記のとおり、被告は原告と職場ヘルパー委託契約を締結した。

3(一)  同3(一)の事実のうち、原告が輪番制を指示したとの点は否認するが、その余は認める。ただし、出勤簿への押捺は同五五年六月まで、原告の勤務が午前一〇時から午後二時までとなったのは同五六年一一月以降である。右輪番制は職場ヘルパーの話合いの結果を制度化したにすぎない。

(二)  同3(二)(1)ないし(6)の事実は認める。

(三)  同3(三)は争う。原告ら職場ヘルパーの職務は、その創意工夫に基づいて行われるものであり、ことさら被告が指示する性質のものではない。

4(一)  同4(一)の事実のうち、職場ヘルパーに対する委託料が同五八年一月当時月額五万五〇〇〇円であり、委託業務を行わなかった場合一日につき二二〇〇円が減額されていたこと、交通費及び一時金(ただし、繁忙月における加算金である)を支払っていたことは認め、その余は否認する。

(二)  同4(二)前段の事実のうち、原告の執務時間は同五六年一一月以降午前一〇時から午後二時までであったこと、同五五年六月までは出勤簿に押捺し、その後は所定の用紙に執務の有無を記載していたことは認めるが、その余は知らない。同後段の事実のうち、同五五年一二月まで年末の繁忙期に執務時間が延びたとき一時間につき五二〇円の加算金を支払っていたことは認め、その余は否認する。

(三)  同4(三)の事実のうち、執務日の点は認めるが、その余は不知ないし争う。

(四)  同4(四)の事実は認める。

5  同5は否認する。

被告の職場ヘルパーに対する指揮命令は単に職場ヘルパー業務の円滑な遂行に必要な注文にすぎず、それに応じなくても直ちには何らの法的効果も発生せず、債務不履行となった場合に契約解除事由となりうるにすぎない。右指揮命令は、公務員に対する職務命令とは異なり、その不遵守が直ちに懲戒処分の対象となるわけではなく、また私法上の雇用契約における使用者の指揮命令とも異なり、その不履行が直ちに契約上の義務違反の効果を生ぜしめあるいは就業規則違反の対象とされるものではない。

したがって、原被告間に使用従属関係はない。

6  同6の事実のうち、被告が原告を任期の定めのない非常勤職員として任用したことは否認する。

(一) 郵政省においては任期の定めのない非常勤職員は制度上存在しえない。すなわち、郵政省における非常勤職員の任期について、郵政省非常勤職員任用規程(昭和三五年九月二六日公達第五二号、以下、「任用規程」という)五条は「非常勤職員の任期は、一日とする。ただし、次の各号に定める期間(注、二ケ月以内)を予定雇用期間とし、当該期間内においては、任命権者が別段の意思表示を行わない限り、その任期は、更新されるものとする。」と規定し、その運用通達(昭和三五年一〇月二〇日郵人第七二五号)は「予定雇用期間の満了日においては、当然退職となるほか、任命権者が任期(一日単位)を更新しない旨の意思表示を行なった場合には、その日の勤務終了をもって、当然退職となるものとする。」と規定している。したがって、郵政省における非常勤職員の任期は全て一日であるから、被告において、原告を任期の定めのない非常勤職員として任用することはありえない。

(二) 国家公務員の任用行為は人事異動通知書の発行及び交付を要し(人事院規則八―一二第七五条一号)、ただ、非常勤職員の採用は通知書に代わる文書の交付その他適当な方法をもってこれに替えることができる(同規則七七条一号)。そして、郵政省においては、前記運用通達第六条関係4(2)アにより「通知書に代る文書の交付その他適当な方法」とは、非常勤職員の発令については、辞令簿又はこれにかわる帳簿等に発令事項を記載し、本人に確認させた上、押印させる方法を指すものとされ、非常勤職員を採用する場合には要式行為としての右手続が必ず履践されている。原告との間で右手続は行われていない。

7(一)  同7(一)の事実のうち、職場ヘルパー委託契約を締結したことは認めるが、その余は否認する。右契約は準委任契約である。

(二)  同(二)、(三)は争う。

8  同8は争う。

9(一)  同9(一)の事実のうち、原、被告間の職場ヘルパー委託契約が終了したことは認めるが、その余は否認する。

(二)  同9(二)冒頭の主張は争う。

(1) 同9(二)(1)は認める。

(2) 同9(二)(2)の事実は否認する。

(3) 同9(二)(3)は争う。

(4) 同9(二)(4)の事実のうち、前記委託契約を更新したことは認めるが、その余は争う。

(三)  同9(三)の主張は争う。

10(一)  職場ヘルパー委託契約の法的性質

被告は昭和四七年六月二九日原告との間で、準委任契約たる職場ヘルパー委託契約を締結した。

(1) 職場ヘルパー制度は、昭和四五年、若年の郵便外務職員を確保しその定着を図る施策として、職場ヘルパーと称する婦人を試行的に配置することに始まり、翌年から本格的に実施されることになった。

その後諸情勢の変化に伴い同五六年七月一日から、職場ヘルパー制度の目的は、明るく働きやすい職場環境作りを目指し、郵便外務職員の身だしなみの世話・生活相談・職場の整理整頓等を通じて広く郵便外務職員の士気高揚・作業能率の向上を図ること等に置かれることになった。そのため、職場ヘルパーはよりコンサルタントないしアドバイザー的な性格を強め、優れた人格・識見・創造性等の資質が要求されている。

このような職場ヘルパー制度の趣旨・目的に照らし、原告が履行すべき業務は、およそ被告の指揮命令に親しまず、職場ヘルパーの創意工夫に基づいた裁量に強く依存している。したがって、右委託契約は原告の労務自体の利用を目的とした労働契約ではなく、一定の事務処理の委託を目的とした準委任契約である。

(2) 国家公務員である郵政職員の勤務関係は公法関係であるから、私法上の労働契約ないし労働契約類似の無名契約が成立する余地はない。すなわち、郵便等の事業を行う国の経営する企業に勤務する職員は一般職の国家公務員であり、その勤務関係が公法的規律に服する公法上の関係であることは、国公法二条四項、国公法附則一三条、国営企業労働関係法四〇条、郵政省設置法八条に照らし、明らかである。そして、国公法二条六項によれば、郵政省を含む国の行政機関は、公務員たる職員以外に、私法上の契約に基づき職員を採用することは禁止されている。そうすると、郵便等の事業を行う国の経営する企業に勤務する職員を、国公法及び人事院規則に基づくことなく私法上の労働契約により採用することが認められていないのは勿論、一般職又は特別職以外の職員を私法上の労働契約により採用することも認められていないのである。

(二)  右委託契約の期間の定めと契約終了

(1) 原告との右委託契約更新の経緯は次のとおりである。

(イ) 昭和四七年六月二九日 契約締結。

(ロ) 同年七月一日契約締結。契約期間を同四八年三月三一日までとし、期間満了の一ケ月前までに当事者の一方から解約の通知をしないときは四年を超えない範囲で契約を自動更新する旨合意した。

(ハ) 同五〇年八月一日 契約締結。(2)の契約による自動更新中であったが、委託報酬月額の改定がなされた際に改めて締結した。契約期間を同五一年三月三一日までとし、前記同様の自動更新条項を定めた。

(二) 同五一年七月一日 契約締結。(3)の契約による自動更新中であったが、委託報酬月額の改定の際に改めて締結した。契約期間を同五二年三月三一日までとし、前記同様の自動更新条項を定めた。

同五二年七月一日、同五三年一一月一日契約内容を一部改定した。

(ホ) 同五四年四月一日 契約締結。契約期間を同五五年三月三一日までとし、前記同様の自動更新条項を定めた。

同五四年七月一日契約内容を一部改定した。

(ヘ) 同五五年四月一日 契約締結。(5)の契約による自動更新中であったが、請書作成通数についての取扱いが変更になったのを機に改めて締結した。契約期間を同五六年三月三一日までとし、前記同様の自動更新条項を定めた。

同五五年六月二七日契約内容を一部改定した。

(ト) 同五六年七月一日 契約締結。郵便ヘルパー制度の趣旨・目的が変更されたことに伴って新たに締結した。契約期間を同五七年三月三一日までとし、自動更新条項は定めなかった。

(チ) 同年四月一日 契約締結。契約期間を同五八年三月三一日までとした。予算成立が遅れた関係で、契約書は同五七年四月一二日に作成された。

同年一二月二八日契約内容を一部改定した。

(リ) 同五八年四月一日 契約締結。契約期間を同年九月三〇日までとした。予算成立が遅れた関係で、契約書は同年四月九日作成された。

(2) このように右委託契約は期限の定めがあり、原被告間の契約関係は同年九月三〇日の経過により終了した。

11  原、被告間の右委託契約が終了に至った事情

(一) 近畿郵政局は大阪中央郵便局長に対し、昭和五八年四月から同郵便局における職場ヘルパーの配置人員を四名から二名に減ずる旨通達した。

(二) そこで、同郵便局は同五八年一月部議を開いて検討した結果、原告ら三名の職場ヘルパーはいずれも資質に差がなく、そのうちの二名のみと再契約することは困難であったため、右三名のいずれとも再契約しないこと、ただ右三名の生活設計をも考慮して、六ケ月間に限り職場ヘルパー委託契約を締結することを決定した。そして、同郵便局窓口集配部長は同年四月一一日原告ら職場ヘルパー三名に対し、同年九月三〇日までの契約は締結するが右期間満了後は再契約はしないと説明し、右三名の了承を得たうえで、同年四月九日付け委託契約を締結した。

(三) 大阪中央郵便局は、同月一五日、職場ヘルパー江頭武子との間の委託契約を合意解約したが、従来の経緯から原告ら残り二名についても再契約しない方針を維持し、同年八月一八日なおも再契約を希望する原告に対してその旨を伝えた。

江頭は現在の職場ヘルパー三名が再契約しないことを再三確認し、右解約に応じたのであるから、被告は残った原告ら二名と再契約することはできなかった。

(四) 同郵便局は同年一〇月二四日浜常子及び松森菊江と職場ヘルパー委託契約を結び、両名は同年一一月一日から勤務を開始した。

12  よって、原告の請求はいずれも理由がない。

第三証拠(略)

理由

一  第一次請求について

原告は、被告が原告を昭和四七年六月二九日付けをもって任期の定めのない非常勤職員として任用したと主張するので検討する。

1  郵便等の事業を行う国の経営する企業に勤務する職員は一般職の国家公務員たる身分を有し、その勤務関係は公法関係である(国公法二条二項、四項、国営企業労働関係法二条二号四〇条)。そして、一般職に属する非常勤職員については国公法附則一三条に基づく人事院規則による特例はあるものの、その勤務関係は基本的に公法関係であると解される(同法二条四項、郵政省設置法八条)。

2  郵政省における非常勤職員の任期は一日であり、ただ予定雇用期間二ケ月の範囲で任期が自動的に更新されるに止まり、予定雇用期間の満了日において職員は当然退職となるほか、任命権者が任期(一日単位)を更新しない旨の意思表示を行なった場合は、その日の勤務終了をもって当然退職となるのである(任用規程五条、同運用通達第五条関係4(1))。したがって、法制上郵政省においては任期の定めのない非常勤職員は存せず、かつ、非常勤職員の任期は自動更新されたときでも二ケ月を超えることはない。

3  右1、2の事実、(証拠略)、原告本人尋問の結果によると、被告は昭和四七年六月二九日原告を職場ヘルパーとして用いるにあたり、原告から期間を九ケ月と定めた職場ヘルパー委託請求を徴しているのであるから、被告において原告を任期の定めのない非常勤職員として任用したものでないことは明らかである。

したがって、原告の右主張を前提とする第一次請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

二  第二次、第三次請求について

原告は、予備的に被告との間で労働契約、又は労働契約類似の無名契約を締結した、と主張するので、この点につき検討する。

1  政府は、一般職又は特別職以外の勤務者を置いてその勤務に対し俸給、給料その他の給与を支払ってはならず、これに違反した者には刑罰が科せられる(国公法二条六項、一一〇条一項一号)。

2  右は、法定の任用行為によらないで、国の指揮命令の下に公務に従事する職員を採用することを禁止し、右任用行為によらない職員の採用を無効とする趣旨と解される。

3  そうすると、原被告間に労働契約が有効に成立したと認めるべき余地はない。また、原告主張にかかる労働契約類似の無名契約もその内容は労働契約と同一であって、有効な成立の余地はない。仮に原、被告間に労働契約関係と同様の事情が存在するとしても、有効な労働契約又は労働契約類似の無名契約の成立を肯認することはできない。

したがって、原告の右主張を前提とする第二次、第三次請求もその余の点について判断するまでもなく失当である。

三  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 土屋哲夫 裁判官 大竹昭彦)

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